[[[ カキコ ]]]


作:harima@R.D.V.神奈川支部長
2000.5.4 作成

パソコンのスイッチを入れる。
"ブィーン"と音がする。
「上手くいきますように」
つい手を合わせて拝みたくなる。

最近私はパソコンを買った。
たまにちょこちょこ姉のとか友達のとか使う事はあったが、
ファンの人が作ってくれた私(!)のHP(ホームページというらしい)を
毎日見たくてなって買ってみた。

「その思いがけ宜し」
と誰かに言われそう。
いや姉にそう言われたっけ。

とにかく姉のアドバイスに従って1台買ってみた。
ついでに動くようにしてもらった。
良く分からないけれどもHPも見られるようにしてもらい、
毎日ちょこっとずつ見ている。

「良い、この紙に従って動かすのよ。余計なボタン押しちゃ駄目よ。
 それに電話は繋ぎっぱなしだとお金掛かるから、余り繋いじゃ駄目よ。
 平日は夜10時から、土日は何時でも良いけれども、繋ぎっぱなしだと
 お金取られるから」
「ハイハイお姉さん」
 うるさい姉を追い出し
(姉というのはどうして何時もああなんだろう。私を子供扱いしてばかり。
だんだん母に似てきた)、
私はぽつぽつと使ってみた。

最初の電話代の通知の時は少し焦ったが、
それでも一人暮らし初っぱなの電話代に比べたらショックなかったし、
結構色々なものが見られたりするのが面白い。

友達を扱っているHPを見たり、
今迄の仕事に対する皆の感想を見たり。


人は一つの壁を越えると次へ挑戦したくなるものらしい。
と言うわけで私は"カキコ"なるものをしたくなった。
何でもたいていのHPに一つは付いている、
"掲示板"とか"ゲストブック"とか言うところに
メッセージを載せる事らしい。
"書き込み"の業界用語、かな。

今迄HPに書き込みをした事はある。
姉に教えてもらったり、友達に教えてもらったり。
でも折角PCが目の前にあるから、時間が掛かっても一人でやってみようと思う。
...決して うるさい姉を嫌ったんじゃない。

「えっとメモメモ、っと」
私はメモ用紙を探した。
友達とか姉と話して教えてもらって、
あとで一生懸命メモった必殺虎の巻である。 それに日本語の出し方(何でPCって
そのまま日本語出ないんだろう)とか書き込む時の諸注意がメモってある。

「有った有った」
私は紙をPCの横に置き、手を合わせる。
「タリスマン(一応PCの名前のつもり)、お願いね」
私の(って私が作ったんじゃなくファンの皆が作ってくれたんだけども)HPに行き、
掲示板を開ける。

いざ!!


30分苦闘した。
文字の出し方は分かったのだがその次にどうやって白いところに文字を
入れるのか分からなくて悪戦苦闘。
姉とか友達がやっていたのを思い出しながら、
入れたいところに矢印(カーソルというらしい)を持って来て
マウス(何処がネズミなんだろう?うちのは白い。色は関係ないか。付いている
線かな。格好かな)の右ボタンを押してようよう書けるようにして。

そうしたら次は日本語。
キーボードを前にして、つい愚痴が出る。
「何で"アイウエオ順"に並んでないのよ!
 "み"は何処"み"は。あ、有った。"ん"はっとお...、あ、こんなところか。"な"は、"U"の所か。
 訳分かんない並び方。えっと変換キーは、これ?あれ、変わんない、こっちかな、あ、そうだそうだ...」
壁にぶつかるメモ見て書き足して、あっと言う間にA4の紙が文字で埋まる。
世の中にはこんなの、何の苦もなくやる人もいるんだろうなあ。

ミネラルウォーター(流石に昼間なのでお酒は飲めない)を飲みながらどうにか
こうにか、文章が完成した。
もう一度文字を眺めて、打ち間違いとかないのを確認して、画面のボタンを
クリックした。


文字が消えた。

そのまま10分は固まっていたと思う。
私が30分書けて打ち込んだ文章は何処かに消えてしまった。
色々なところを押したりPCを立ち上げ直してみたりしたが、私の文章は
消えてしまった。

「私の青春を返して...」
そう言いたくなってしまう。
"やけ酒しようかな"
つい頭をかすめる。
でもここはグッと堪え、電話した。

「はい...」
「あ、姉さん?消えちゃったのよ?」
「...何よ藪から棒に。もう少し分かるように説明しなさいよ」
「だから消えちゃったのよ。書いた文字が」
「何処に書いたの?」
「PCの画面」
「PCの画面って、お絵かきツールの話?」
「そうじゃなくってインターネットで色々なところに繋ぐでしょう。その時に出て来る
 画面。なんかのボタン押したら、書いた文字が全部消えて」
「画面で押せるところ、有る?」
「えっと、グレーのボタンが2個、"投稿"と"消す"がある」
「...あんた、"消す"のボタン、押さなかった?」
「え?」

どちらか押した気がする。
そう言えばどちらを押すか分からなくて、
"右利きだから右押しちゃえ"って押した気が...。

「そっかなあ...」
「...多分そうよ」
姉がため息を付いた気がする。
「分かった。どうもね!」
小言が出る前に切ろうと思った。
「ちょっと!」
「何?」
やば。
「何打っているの?」
「え、あ」
テーブルに乗っかっている新聞を見て、
「懸賞に応募しようとして」
「...それだったらボタンは"応募する"か"やめる"じゃない?」
分かって言っているんでしょう。
「あれ、そうだっけかなあ。もう他の画面に行っちゃったから」
「全くもう。まあ良いわ。せいぜい頑張って」
可愛くない姉。

「あ、そうそう」
「何?」
「あんたならまだ書き込みに時間掛かると思うから、テキスト画面を開けてそこに
 文章を書いた方が良いわよ。その方が電話代の節約になるし。電話繋ぎっ
 ぱなしで書いていない?」
「...今電話は姉さんに掛けているわよ」
「そうね」
「それよりその"テキスト画面"って何よ?」
「それはね...」

ここから暫く姉の説明が続いたが、半分お小言だったのでカット。

「どうも有り難うね」
「いえいえ、頑張ってね」
「はいはい」
「あ!」
「何?」
「うん、ファンの皆があんたのカキコ見て喜ぶと良いわね」
「え?」
「じゃあね」

電話が切れた。
「有り難うね」
何度もお見通しの姉に、感謝。

年下って何時まで経っても年上を追い越せなのかな。
膝小僧を抱えてちょっと情け無くなった。
不意に姉の笑顔が見えた気がする。
「少なくとも私はあなたみたいに、踊れないわよ。
 私を見つめてくれる"ファン"は、家族だけよ」

そうだね。
臆する事ないものね。
皆が出来る事して、他の人の役に立てれば良いんだし。
「お姉ちゃん、有り難うね」
私はもう一度、呟いた。


そして私はもう一度PCに向かった。
ねじりはちまきで
(って言葉のあやだからね、皆さん。こう書くと『目に浮かぶようで』って返事が
来そうで)。

文字を打ちながら、勢い言葉が口をついて出る。
"パチリパチリ"
「ファンの皆、ごめんね」
"パチリパチリ"
「皆に電話番号でも教えてあげられれば密に連絡取れるけれどもそうは
出来ないし」
"パチリパチリ"
「でもファンレターの返事だけだとねえ...」
"パチリパチリ"
「だから私、頑張って"カキコ"してみるよ」
"パチリパチリ"
「沢山の人が、私の文章、読んでくれるように」
"パチリ"
「出来たあ!!」

テキスト画面とか言うところに並んだ文字。
自分一人で初めて打ち込んだ文字。
間違いがないか、もう一度チェック。
ミネラルウォーターを飲んで、心を落ち着ける。

「良し!」
HPに繋ぐ。
文字を貼る。
ボタンを、押す。

「出来た!!」
私の初めての"カキコ"は成功した。
一瞬にして表示される。
それまでの数時間の苦労をみじんも感じさせないように。

記念写真でも撮ろうかな、と思ってクスリ。
ニコリともしないで姉が、
「文章がね」
と言って連絡してくるのだろうな、と思ってクスリ。

この喜びを誰かに伝えようと思った。
皆の顔が頭をよぎる。
3代目も考えたが突っ込まれる気がしたので別の番号を回す。
...あちらへのカキコは、又今度にしようっと。
今日は電話で良いよね。

「あ、聖子、今日さあ...」


−−− 完 −−−




はい、鏡に向かうナオさんの次はカキコにチャレンジの巻でした(笑)。
ところで、実はharima氏ご本人様は、ナオさん演ずるウラヌスの
最初のパートナー、島田沙羅さんのファンの方でして、
御名前の後ろに付いているのはその証しなのです。


作者:harima@R.D.V.神奈川支部長様
(Webサイト「島田沙羅応援HP」管理者様)




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